伝統工芸の職人さんへ

現状、土佐だけではなく日本全国他の刃物産地を見渡しても、後継者不足は深刻な状況です。これは刃物に限ったことではなく、どこの伝統工芸を見てもだいたい同じ状況だと思います。

理由はなぜか。
ただ一つ、ものづくりの世界で職人が稼げていないから。従来の販売の仕方と流通形態がそういう状況を作ってきました。これを変えない限り土佐の刃物業界に未来はありません。

この課題は何十年と変わってません。
30年前のどこかの刃物産地の提言書にも、20年前のとある刃物産地の新ブランド立ち上げのコンセプトにも明記されてます。

でも変わっていない。

鍛冶屋が稼げていたら、弟子(今の創成塾の若者たちのような)を取る余裕も出来る、息子にもやらせてもいいと考える職人も生まれるはずです。
かつてはそういう状況がありました。仕事がどんどん増えて弟子を取ってその弟子が独立してどんどん職人も生産量も増えていく高度経済成長時代。
それが、いつからか手に職をつけても、キツい仕事の割に稼げない、朝から晩まで忙しく働いてもたいした稼ぎにならないようになってます。

課題はおそらくこの一点です。
ここを変えれば次の職人は生み出せるはず。
そのためには今の職人がしっかり稼ぐこと。売上だけではなく、同世代の公務員や県内大手の会社員レベルの収入を得て、同じくらいの労働時間で生活していけるように。(あ、公務員さんも大手の会社員さんも残業しゆうか。)

ただ、時代は追い風です。
親方世代の30年前には想像出来なかった風が吹き荒れてます。機械で作った品や中国製の品と値段で戦わなければならなかった当時。品質が良いことはわかっていても安くなければ流通させてもらえなかった時代。

今は違います。
ホームセンターの安い品を全員が買っていた時代を経て、品質も重要な選択基準になり手作りの品や作り手の気持ちまで届く品を選ぶ人が増えてます。
もちろん値段だけが判断基準の人もたくさんいますが、その人たちにまでターゲットを広げる必要はない。道具に対して意識の高い層の心を掴んでいけば、その次の層にも少しずつ気づいてもらえるようになっていくはず。

大企業がD2C(ダイレクトツーコンシューマー)に舵を切っていると聞きます。大きな広告をうって沢山の小売店へ並べても昔ほど意味が無くなった。それより顧客と近づき濃く繋がることがこの先の時代には必要。
これは自分たち鍛冶屋にも出来ることです。むしろ大企業よりずっとやりやすい。

インターネットがあるのです。スマホです。SNSです。
「鍛冶屋みんながネット販売しよう」って言ってる訳ではありません。得意不得意はあるので、直接繋がることが全てではない。この部分を問屋さんや小売屋さんが担っても良い。間に問屋が入っても誰が作ったかわかる売り方。トレーサビリティのある世界。よくある職人の顔を出すという形。

ただもう一つ次の世代の職人はみんな自社での直売やネット通販を当然のツールとしてやってくるはず。スマホネイティブな世代は自然にやるよね。ここで若いやつらに逆転食らわないために今出来る人はやるべきやと思うけどなぁ。仕事じゃないところでスマホ使いゆうもんね。

そんな追い風の吹く時代です。

鍛冶屋の数が減ったことによって仕事は現存する鍛冶屋に集まってきてます。東京や大阪など都会の刃物業者さんから次々に注文が舞い込んで職人は今みんな忙しい状況だと思います。その忙しさの中身をもう一度見つめてみませんか。それはこの先も続くのか。オリンピックが過ぎ去っても続くのか。10年先20年先にその取引先は営業を続けているのか。

今の忙しさの中身とともに今の単価も見つめてほしい。
その値段で作っていれば生活は出来るでしょう。職人は70歳でも80歳でも働くことが出来ます。退職後の20年とかは想定しなくていい。たぶん自分とその家族は生きて行けるでしょう。

一点だけ考えて欲しい。
その仕事内容と今の単価で次の世代に渡せますか?
息子が職人になりたいと言った時、どこかの若者がやらせてくださいと言ってきた時。

鍛冶屋創成塾には10人の応募があったと聞きました。やってみたい若者はいるのです。
その時に「やめちょけ」って言いますか?
その時に「やめちょけ。よそで勤めた方がなんぼかまし。」って言ってきた職人が多いから後継者不足に陥っているのです。

あなたの親父さんはやらせてくれたよね。親方は受け入れてくれたから今の仕事が出来ゆうがよね。その流れを途切れさせますか?

今の世代で土佐の鍛冶屋を終わらせますか?

何か行動しても、何か新しいこと始めても、すぐに結果がでるものではありません。それでも今のままでいることのリスクを感じてほしい。現状維持への危機感を。

職人であってもそういう経営者としての意識を持つべきだと思う。それが必要な時代がとっくに来てます。

5年後10年後の自分のために、その先20年30年後の後輩たちのために。

考えてほしいなぁ。

 

 

 

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